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『爪の形がさ』
涼太は真剣だった。
『違うだけで、俺が気付いてしまったように、匂いや雰囲気っていう、そんなあやふやなものでも血が繋がってれば、家族ってわかる。だったらこうやってやみくもに歩いたら、本当の親と出会えるかもしれないだろ。すれ違えたら、きっと俺、わかると思うんだ』
馬鹿じゃん、って思った。そんな全くあてになんない確率のために歩く涼太が。
でも言えなかった。涼太は本気だったからだ。
黙った俺に涼太は言った。
『父さんも母さんも瑞樹も好きだよ。だからこそ、俺がそんなことしてるって知ったら傷つきそうだから言わなかった』
『……傷つかないよ』
俺は意地を張って言った。
『でも、隠し事は嫌だよ。だからもう追いかけないから、どんな探検したのか後で教えて』
俺は、涼太と秘密を共有したかった。
お兄ちゃんと弟と、本物以上でいたかった。
この遠出を気にしていた一番の理由は、姿を消した涼太が、そのままどっかいっちゃいそうで怖かったからだ。
しばらく二人で立ち尽くしていたけど、ようやく涼太は首を縦にした。
『わかった。じゃ、探検した日は、行った場所を写真にとって瑞樹にみせる』
涼太はそれ以来、探検に行っては律儀に写真をとり、行った先の出来事を話してくれるようになった。
内容はほとんどただの散歩だった。どこまで本気で探しているのかわからない。
思いがけず一面の花畑を見付けたり、高台からの景色や、寂れた駅や、たまたま目に留まった人や、鳥や猫。変わった家。すごい綺麗な人と出会った!って興奮してた時もあれば、美味しそうなケーキ屋さんを見つけたからってお菓子を買ってきてくれたこともある。
涼太は楽しそうだった。写真はどんどん増えた。涼太の見たものがそのまま、出来不出来はあれど、何かが伝わってくるような写真ばかりだった。
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