7.夏の夕暮れ……瑞樹

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 俺は涼太の部屋でその話を聞くのが好きだった。  行った先で、きょろきょろしている涼太は知らない人に声をかけられたて仲良くなったり、道に迷ったり、ちょっとした旅気分を味わっているらしい。  いつの間にか、俺も勘で、今日は探検に行ったんだな、とわかるようになっていた。  それこそ行くタイミングは涼太のひらめきなのに、時間や様子で俺の推察はほぼはずれなかった。  涼太が高校になってもその習慣は続き、俺も、よくやるな、と思いながら楽しんでいた。勉強と部活で休む間もない俺にとって、見慣れない景色も、破天荒な涼太の話も、いい息抜きになっていた。  ああ、今日も行ってるんだな。  去年の夏だった。  夏休みが終わりの日だった。ちょっと出てくる、といった涼太が、見た事もないような尖った雰囲気で家に帰ってきた。無言でリビングを横切って、そのまま部屋に籠って出てこない。 『今日、探検したんでしょ? どうだった、写真みせて?』  ドア越しに、ノックしながら声をかけたけど、涼太は写真はない、と言ったきり、開けてくれなかった。そんなのははじめてのことだった。  俺はもう塾の時間だったから、気になったけど家を出るしかなかった。  その時、玄関に脱ぎ捨てられた涼太の靴には青い草がついていた。  たぶん、あの日が始まりだったのだ。    俺の勘がいつものように正しいのだとしたら。
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