8.秋の嵐……涼太

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8.秋の嵐……涼太

 すこん、と晴れた空だった。  秋晴れにふさわしい、高くて澄んだ青い色。俺は頬づえをついて教室の窓から、その遠くを見る。  手元の進路調査票に書くべきの、ちょうどいい言葉が思い浮かばない。  適当な大学名を書き、その学部に見合う志望動機を書けばいいのはわかっている。だけど、高校を選んだ理由は和真だったから、その先の進路や大学のことは考えてなかった。  秋になり、推薦組はもう受験が始まってるのに、目指す大学すら絞れてないっていうのは、さすがにまずい。  ……けど、なあ。  無難な選択なら、わかってる。でもそれは違う。やってみたいこともないわけじゃないけど、言えば一揉めするだろう。それはなるべく避けたい。  普段、直感まかせで、思い付きで行動するくせに、俺は珍しく躊躇していた。  大学まで行かせてもらうのは、ちょっと世話になりすぎなんだよな。  俺は、浅野の家には成人まで、と決めている。  その成人のくくりは高卒か、ハタチあたりと漠然と思っていて、大学に行って社会人になるまでだと、ちょっと長い。  失敗だったのは、この高校が、和真の成績に合わせて入学しちゃったせいで進学校だったことだ。だから、ほとんどが大学に行く。ここで一人、就職を希望したら、面倒な波風が立つことは避けられない。  そういう意味ではもうとっくにタイムリミットなのかもしれない。  この波風は、遅かれ早かれどこかのタイミングで、必ず、立つ。それがもう直だってこともわかってる。だけど。
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