8.秋の嵐……涼太

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 俺は親切な父さんと母さんに泣かれるのに、めっぽう弱い。  遠慮するな、とか。お前はうちの子だとか、切々と語られそうでやりきれない。そういう訳じゃないんだけど、全然。それに瑞樹だ。あいつは堅苦しいうえに俺に熱いから、それなりにちゃんとした進路を示さないと黙ってないだろうし。    浅野家の人はみんなちゃんとしてて、いい人すぎる。  だから余計に俺はふさわしくない。それだけのことなんだけど。 「浅野、調査票出して」 「んー」 委員長に声をかけられて、気付いたらもう時間ぎりぎりだった。  俺はひとまず、調査票に和真が希望している大学を書いた。第一、第二、第三希望まで、学部を変えて全部同じ大学だ。すっごく適当で我ながら申し訳ない。 「悪いんだけど次の体育、俺の代わりに先に行って道具出しといてくんない? 俺、全員分回収してから職員室届けにいかなきゃなんなくて、間に合うかわかんないんだ」 「いいよ」 委員長は俺の調査票をチラ見して、手元のファイルに綴じた。 「大学まで望月と同じ? すごいな、俺としてはこの腐れ縁がどこまで続くのか見てみたい気もするけど」  委員長は少し、皮肉ともとれる口調で言った。俺はカチンときて委員長を斜めから見上げる。そもそも隣のクラスの和真の希望校を知ってるってこと自体、ずいぶん、ご執心だ。 「確かめたいんだったら委員長も一緒に受験する?」  生真面目な委員長の頬が紅潮した。
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