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「涼太こそ勉強いいの? 模試、すぐだよ」
和真はぼんやりしてる俺に、現実を突きつけるみたいに鋭く言った。
「別にいいよ、わかるとこだけ書く」
適当な俺の答えに和真はあからさまに眉を寄せた。
「高校受験の時みたいに上手くと思ったら甘いからな。学部によって開きがあるとはいえ、最低でもそこそこの偏差値あるよ、あの大学」
「あー……うん、まあ、それは知ってる」
和真はむっくり体を起こして、俺を見下ろしている。俺の反応の鈍さに、いらだちをそのままぶつけてきた。
「今の俺は、涼太に勉強を教えるほど余力がないんだ。もうちょっと自力でやる気出さないと、大学、一緒に行けなくなるぞ」
俺も起き上った。一方的にまくしたてられて、いつも沈めておく胸の奥底の感情が波立っていた。いや、違う。勝手に決めつけられることの全てを、俺はずっと嫌悪していたから。
「ねえ、何で? 俺、和真と同じ大学行くって言った覚えないよね」
「え?」
和真は、一瞬、虚を突かれたように固まった。
「だって、委員長が……洸、進路調査、お前と涼太、また一緒なんだなって」
「何だあいつ、人の進路、勝手に」
俺はベッドから抜け出した。
和真はそのまま動けないでいる。俺は、学生服の白いシャツに袖を通すと、素早く着替えた。 ざあざあ雨が降っている。その激しさはたたきつけるように、水の欠片が砕け散るように容赦ない。
「雨、やまないからみたいだから、もう帰る」
俺は振り返らなかった。
振り返れば、化けの皮がはがれてしまいそうだったから。
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