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9.秋の嵐……洸
高校に入学してはじめの席で、俺と望月和真は前と後ろの席だった。
持田洸。望月和真。
もちだひかり。もちづきかずま。
名前の順だった。苗字の音が近いから、二人の間では名前で呼びあうようになった。
でも決して馴れ馴れしくはならない。むしろ近づこうとすればするだけ、すっとかわされる。喧嘩をしているわけでもなく、まして話せば普通に笑っているのに、少でも踏み込んだ素振りをみせると、困惑したように黙った。
その他人行儀な距離感に、嫌われているのかと疑ったこともある。でもどうやらそれは和真がはじめからこうと決めている感覚らしくて、誰に対しても同じだった。
和真が全く壁を作らないのは、浅野涼太だけだった。
浅野は和真とは対極で、子供みたいに天真爛漫で、物おじしない積極的な態度で誰とでもよくしゃべる。
あれだけ自由に振る舞えるのは、浅野の家の子だからだよ。
中学が同じだった同級生はこっそり俺に耳打ちしてきた。
浅野の家は地元の旧家らしい。涼太のちゃらい態度を見てるととてもそんな重みは感じられなかったけど、地方とはいえ二百年も続く家柄で、この地域の名士に強い人脈を持ち、事業は勿論、一帯の土地や相当数の由緒ある美術品を保有している名家なんだそうだ。最もその大邸宅には使用人と涼太の祖母にあたる人物が住んでるだけで、涼太一家は外にでて、今時の一般住宅に住んでいるって話だった。
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