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友人の輪の中で、楽しそうに騒いでる浅野と、特に話すわけじゃないけど、その輪の近くで自然に馴染んでいる和真は、小学校からずっとこんな調子だったらしい。
俺はなんとなく目立つ二人だな、と思いながら気にしていた。
あっちこっちでちょっかい出してふざけてる浅野は、やんちゃな子ネコみたいで、和真はそれをどっしり構えて眺める母ネコみたいだった。
おかしな例えかもしれないけど、二人の間には、他と違う肉親めいた繋がりが漂っていた。幼馴染ならではの空気は穏やかだったけど、ともすれば活発な涼太に物静かな和真が振り回されているように見えた。
学期はじめの座席は、お互いの顔と名前に慣れる頃また席替えになって、俺は和真の近くになることはなかった。
俺は俺で友達は少ない方じゃなかったし、クラス委員になって、そっちも忙しい。あんまり和真と接点をもつ機会がないまま、季節は過ぎて。
あれは冬の頃だったと思う。
「洸は真面目だね」
遅くまで残ってクラス委員の仕事をしていたら、ひょっこり教室に戻ってきた和真が、手伝ってくれたことがあった。別に俺は真面目じゃない。断るのが下手なだけだ。その時の俺は、安請け合いが立て込んで、いっぱいいっぱいだった。正直、泣きたいぐらい切羽詰まっていた。
「別に真面目なんかじゃないよ。誰かがやらなきゃならないだけだ」
俺はふてくされたように言った。人付き合いに距離が測れる和真だったら、こんなバカみたいな窮地に陥ることなんかないだろうと思ったりした。
和真は物静かだけど、駄目なことはきちんと断る。落ち着いた口調で、むしろ相手を諭すように。
でも俺はそこで本心を裏切って良い顔をしてしまう。持田に任せとけば大丈夫、とか、洸やってよお願い、とか言われると、なよなよと引き受けてしまう。
その結果、いい人って言われたりするけど、それは本質じゃなくて、嫌なヤツだと思われたくないだけの上っ面だ。
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