9.秋の嵐……洸

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「手伝うよ」 「いいよ、俺が引き受けたんだ」  俺は和真に引け目を感じて、意地を張った。八つ当たりだった。でも、和真は手伝う手を止めないまま、暇つぶしだよ、ってすごく自然に受け流してくれた。俺の不機嫌を気付かないふりしてくれて、有り難かった。 「そっちの半分も貸して」  手を差し出した和真は、一瞬、窓の外を気にした。  暇つぶしは嘘ではないらしく、たぶん、部活の助っ人をやってる涼太を待っている。  涼太は決まった部活には所属してなくて、声がかかれば、どの部でも気軽に手伝いに行っていた。ノリの軽さとは裏腹に、勘がよくてスポーツ全般を無難にこなしてしまう。それで重宝がられて、年中、お呼びがかかる。本格的にやらないか、と何度も声がかかったくせに、面倒くさい、の一言で全部断っているらしい。  でも俺はそんなことはどうでもよくて、目の前で作業する和真ばかり気になる。  和真が手伝い始めたら、大量にたまっていた雑用はみるみる片付いた。それで少し余裕ができたのか、俺は正面に座った和真の、男にしては長すぎるまつげに初めて気が付いた。  ……こいつ、美人なんだよな。  いや、男なんだけど。でもかっこいいっていうより綺麗の方が全然しっくりくる。 「どうかした?」  和真は大きめのアーモンドみたいな形の瞳で俺を見返した。真っ直ぐの視線を受け止めたら、心臓がきゅ、っとした。夕日が教室の窓から差し込んで、和真の輪郭を金色に縁どる。俺は一瞬、その端正な美しさに息を呑んだ。
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