9.秋の嵐……洸

5/15
前へ
/250ページ
次へ
   その日、学習室を兼ねた図書室には人気がなかった。  無理もない、テスト明けで生徒はさっさと家に帰ってる。まして日が傾いた時刻だ。俺だって委員会の後で、借りっぱなしになっていた本を返すのに、立ち寄っただけだった。 「あれ、洸」 ポツンと一人、書棚の間で本を読んでいた和真が顔を上げる。俺は見間違えじゃないかと思って意味もなく辺りを見回す。和真だけだった。 「なにやってんの和真こそ」 「涼太待ってるんだけど、暇だから調べものしてる」 「何? 浅野はまだどっかの助っ人やってんのか」 「まさか。さすがに三年の冬に部活はないよ。進路指導室から呼び出し」 少し和真が厳しい顔をした。  この時期に進路指導室なんて、確かにいい話とは思えない。でも俺に言わせれば来るべくして来たことだ。浅野は全然、進路に真面目に取り組んでいる様子がない。 「何、調べてるの?」 「ここ、教材とか参考書も置いてるじゃない。卒業した先輩たちの寄贈品。古いけど、わかりやすいんだ。この間のプリントでどうしてもわからないところがあって」 さっそく和真は脇に抱えていたプリントをとり出した。週末前で、数学が山のような課題を出してきてる。 「洸、問6、わかる?」 「数学は割と好きだから……でもこのグラフはちょっと難しいな。この間、塾でやったやつだ。説明する? 引っかけだよ」 「そっか、考えすぎたかな」 「公式三つ、使うんだ」
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加