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その日、学習室を兼ねた図書室には人気がなかった。
無理もない、テスト明けで生徒はさっさと家に帰ってる。まして日が傾いた時刻だ。俺だって委員会の後で、借りっぱなしになっていた本を返すのに、立ち寄っただけだった。
「あれ、洸」
ポツンと一人、書棚の間で本を読んでいた和真が顔を上げる。俺は見間違えじゃないかと思って意味もなく辺りを見回す。和真だけだった。
「なにやってんの和真こそ」
「涼太待ってるんだけど、暇だから調べものしてる」
「何? 浅野はまだどっかの助っ人やってんのか」
「まさか。さすがに三年の冬に部活はないよ。進路指導室から呼び出し」
少し和真が厳しい顔をした。
この時期に進路指導室なんて、確かにいい話とは思えない。でも俺に言わせれば来るべくして来たことだ。浅野は全然、進路に真面目に取り組んでいる様子がない。
「何、調べてるの?」
「ここ、教材とか参考書も置いてるじゃない。卒業した先輩たちの寄贈品。古いけど、わかりやすいんだ。この間のプリントでどうしてもわからないところがあって」
さっそく和真は脇に抱えていたプリントをとり出した。週末前で、数学が山のような課題を出してきてる。
「洸、問6、わかる?」
「数学は割と好きだから……でもこのグラフはちょっと難しいな。この間、塾でやったやつだ。説明する? 引っかけだよ」
「そっか、考えすぎたかな」
「公式三つ、使うんだ」
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