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俺は衝動的に和真の腕を掴んだ。わからないならわからせてやる、という子供みたいな意地が俺を狂わせていた。これがその証明になるのかはわからない、だけど、やるせない痛みが俺を突き動かし、適性距離を破って顔を近づける。
「ひか、」
和真の唇が、最後まで俺の名を呼ぶ前に、乱暴に図書室のドアが開いた。部屋中に響く力強い足音に俺の手が離れる。
無遠慮に涼太が入ってきて、濃密な空気を一瞬にして断ち切った。
「あー、ごめんごめん和真! 遅くなっちゃった……って、あれ? 委員長」
俺と和真が二人でいるのを見て、いつもおおらかな涼太の眼差しに険しさが混じった。
「委員長どしたの? 和真、具合悪いの?」
「ああ、貧血起こした」
「そっか、見てくれてたんだ。ありがと、あといいよ」
屈託のない笑顔は相変わらずだったが、それでもすぐに俺をおしのけて、和真との間に体を滑り込ませた。
「和真、動ける? まだ無理か」
「いや、そろそろ大丈夫」
「また勉強ばっかして寝てないんだろ。 ったく、言う事きかないんだからもー」
「そっちこそ少しはやった方がいいよ。先生なんて?」
「このままじゃ志望校全滅だって」
「やっぱりね」
「一応頑張るって言ってみたけど、全然、信用してくんなくてがっちり絞られた」
二人の息の合った会話にチリチリと胸を妬かれる。
俺の中で入ってはいけないスイッチが入った。
カチリと。
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