9.秋の嵐……洸

10/15
前へ
/250ページ
次へ
 俺は衝動的に和真の腕を掴んだ。わからないならわからせてやる、という子供みたいな意地が俺を狂わせていた。これがその証明になるのかはわからない、だけど、やるせない痛みが俺を突き動かし、適性距離を破って顔を近づける。 「ひか、」 和真の唇が、最後まで俺の名を呼ぶ前に、乱暴に図書室のドアが開いた。部屋中に響く力強い足音に俺の手が離れる。  無遠慮に涼太が入ってきて、濃密な空気を一瞬にして断ち切った。 「あー、ごめんごめん和真! 遅くなっちゃった……って、あれ? 委員長」 俺と和真が二人でいるのを見て、いつもおおらかな涼太の眼差しに険しさが混じった。 「委員長どしたの? 和真、具合悪いの?」 「ああ、貧血起こした」 「そっか、見てくれてたんだ。ありがと、あといいよ」 屈託のない笑顔は相変わらずだったが、それでもすぐに俺をおしのけて、和真との間に体を滑り込ませた。 「和真、動ける? まだ無理か」 「いや、そろそろ大丈夫」 「また勉強ばっかして寝てないんだろ。 ったく、言う事きかないんだからもー」 「そっちこそ少しはやった方がいいよ。先生なんて?」 「このままじゃ志望校全滅だって」 「やっぱりね」 「一応頑張るって言ってみたけど、全然、信用してくんなくてがっちり絞られた」 二人の息の合った会話にチリチリと胸を妬かれる。 俺の中で入ってはいけないスイッチが入った。 カチリと。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!

880人が本棚に入れています
本棚に追加