キスに溺れる

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こんなに本気で可愛くなりたいと思ったのは初めてかもしれない。 榊田さんから貰った靴が似合うような女性になりたい。 この靴が映えるような服を着て、この靴に恥じないような顔立ちになりたい。  髪はいつも適当で、美容院は半年に一回行けばいい方だ。 化粧だって、綺麗になるためにしているわけじゃなくて、スッピンだと怒られるから仕方なくやってるだけだ。 だから五分で終わるし、かなり適当だ。  これらを改めて、目指す女性像に近付くには、努力よりも何よりもお金が必要だ。 「なんで美容はこんなにお金がかかるんだー!」  狭く汚い六畳の部屋の中で叫ぶ。  榊田さんと別れ、電車で帰った私は、生まれて初めてファッション誌とやらを購入した。 買っただけでお洒落になった気分で、ワクワクしながらページを捲っていた私は、洋服と化粧用品のあまりの値段の高さに奈落の底に突き落とされた気分になった。 「くそ、金、金、世の中全て金か。金があれば何でも手に入るのか!?」  実家暮らしとはいえ、決して裕福とはいえない家庭なので、社会人になってからは家にお金を入れているし、給料のほとんどをゲーム代に費やしてきたので貯金もない。
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