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キョトンとして榊田さんを見つめると、鉄仮面だった顔に少しの変化が現れた。
目をキョロキョロとさせ、何やら落ち着かない様子。
「……いや、何でもない」
話そうとしてやっぱりやめたみたいだ。
気になるけど、また別の件の説教だったら嫌なので深くは追及しない。
というより、仕事モードの榊田さんに追及するなんて恐ろしくてできるわけがない。
「では、失礼します」
お辞儀をして、さっさと戻ろうと歩を進め、ドアに手を掛けた。
すると、後ろから手が伸びてきて、ドアを開けようとした手首を握られた。
「ちょっと待て!」
いつの間に後ろに来ていたんだろう。
びっくりして振り向くと、そこには顔に焦りの色を浮かばせた榊田さんがいた。
「え、何ですか?」
驚きと、目の前に榊田さんがいることにドキドキしてしまう。
榊田さんは珍しく感情を顔に出していた。
力強い目でじっと見つめられる。
黒目がユラユラと揺れていて、いつもは固く閉じられている唇が、何かを言いたげに半開きになっている。
鉄仮面は崩れているのだけれど、どんな感情で余裕を失っているのか、私には全く分からない。
「あの……榊田さん?」
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