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「ちょっと、さっきからニヤニヤしてて気持ち悪いんだけど」
隣の席の華原さんに指摘されて驚く。
「ええっ!私、ニヤニヤしてますか!?」
「無意識でニヤつくなんて更にキモい」
華原女王様の容赦ない突っ込みにダメージを受ける。
クールを装っていたのに、ニヤついていたなんて!心の中がダダ漏れ!
ていうか、ニヤついてるってことは、私、喜んでるってこと?
いかんでしょ!喜んじゃ!
ここは、少女漫画風に「なんてことするんですか!?酷い、初めてだったのに!」と涙目で怒って、端正な顔立ちに平手打ちをするのがお決まりのパターンでしょ。
なに彼氏でもない男の人にファーストキス奪われて、浮かれてんの!
そりゃね、妄想の中では榊田さんに何度も唇奪われてますよ。
でも、現実に起こっちゃったら、そこは怒らないといけないところでしょ。
これじゃ本当に、褒美になっちゃうじゃん。
『俺様にキスされて喜ばない女などいない。
俺様のキスに舞い上がって、馬車馬のように働くがいい。ハハハハー』って高笑いしている榊田さんの姿が想像できる。
飴と鞭をこれほどまでに使いこなすとは!
しかも飴が、よりにもよってキスだなんて!
榊田さんにキスされたからって、舞い上がって眠気も吹っ飛んで、仕事をバリバリやっちゃうような安い女じゃないんだから!
全然、全然、ぜんっぜん、喜んでなんかいないんだからね!
ファーストキスが榊田さんなんてラッキーなんて、思ってないんだからぁぁ!
こうして無駄に仕事が早く終わった私は、まさかの定時上がりを果たすことができたのであった。
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