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旅立ちは突然に #2
榊田さんはこれまで以上に忙しいらしく、会社に戻ってきてもいつも誰かと話し込んでいた。
そんな状況で、私が話しかけられるわけもなく、もやもやは一層増しながら、残酷に時は過ぎていく。
榊田さん出国まであと三日を切っていた。
もう榊田さんに会えないんだろうか。
そう考えると胸が苦しくて、涙が溢れてくる。
榊田さんの笑顔とか、温もりとか、匂いとか、優しさとか、そういうものに触れられなくなるんだと思ったら絶望感が押し寄せてくる。
榊田さんの怒鳴り声も、意地悪な言い方も、聞けなくなってしまったらとても悲しい。
それさえも愛しく思っていたことに気付いて、私の中で榊田さんがとても大きな存在だったのだと改めて認識させられた。
分かったところで、行ってしまうことに変わりはないんだけど。
ああ、もう、泣けてくる……。
布団に突っ伏しながらシクシクと泣いていると、夜二十三時だというのに電話がかかってきた。
誰だこんな時間に……と思ってスマホを見ると、榊田さんからだった。慌てふためいて電話を出る。
「はいっ!はいっ!はいぃっ!」
「はいは一回でいい。相変わらずお前は変人だな」
呆れるような笑った声。
そして変わらずの悪態っぷり。
ああ、榊田さんだぁ。
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