とある探偵氏の事件簿

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 約束した時間きっかりに、彼女は事務所にやって来た。  佐原と名乗る女性から、我が探偵事務所に依頼が来たのは昨日の事だった。自分の恋人が突然職場を退職し、行方不明になってしまったので探しだしてほしい、という内容だった。恋人の家族は全く事情を知らず、職場や警察に問い合わせても個人情報なので答えられない、と突き放されたらしい。失踪した恋人は住居に帰っている様子もないという。 「本当に、真面目な人で……結婚の約束もしていたんです」  彼女は大事そうに薬指の指輪を撫でた。 「心当たりは?」  彼女は、言いにくそうに答えた。 「昔、少しだけギャンブルで……借金が、残っていたかもしれません」 「闇金業者に彼が誘拐されたかもしれない、と?」  青ざめた顔で彼女は頷いた。目元は涙ぐんでおり、憐れなほどに憔悴しきっている。私は依頼を承諾した。
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