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俺はひねりあげていると思っているであろう場所よりもう少し上まで曲がる事を隠していた。
そんな微妙な事を隠していた事が何になるかって?
こういう関節技は完全にきまっている事に意味がある。
きめられている状態では余裕がない、しかし、完全にきまってさえいなければ色々出来るのだ。
俺は俺の腕をきめている相手の手の急所を突いた。
いわゆるツボってやつだ。
ケンシロウほどの威力はないが、思わず手を離してしまうほどの威力はあったようだ。
すかさず相手の腕を逆にひねりあげた。
「痛たた、ちょっと!痛いじゃない!」
すると奥の方からパンパンと手を叩く音がして正にお嬢様然とした少女が姿を現した。
「はい、そこまでよ、だからテストなんて止めようって言ったのに、バアヤが聞かないから」
「申し訳ありません、お嬢様」
バアヤと呼ばれた好戦的なメイドさんはそう言った。
俺は、お嬢様を見て驚いて関節技をきめていた手を緩めてしまった。
まるで、お嬢様を絵に描いたような少女。肩より下に伸びた漆黒のロングが白い服とコントラストを際立たせていた。
しかし、その目の奥に言い知れぬ何かを感じて俺は僅かにたじいだ。
メイドはすかさず、俺の手を振り払って逆に捻り上げた。
「ふっ、油断したね!」
俺は今度はバアヤのなすがままにさせていたが、思いがけず、お嬢様が助け舟を出してくれた。
「もう、いい加減にしなさい、探偵さん困ってるじゃない」
「しかしです、わたくしに簡単に捕まる様では、とてもボディガードなど務まりません」
「それは、バアヤが元合気道の先生だからでしょ?それにその人、まだ、全然本気ではないとおもうわ」
「え?」
たしかに、俺は裏拳どころか、あらゆる打撃系の反撃はしていない。
たぶん裏拳の使い手と言うことを知っているのだろう。
メイドさんは納得したのか、渋々といった様子で俺を解放した。
「フェミニストなんですよ」
俺は半分本当で半分嘘の台詞を吐いた。
実際女に手を挙げたくないというのはあったが、実力者であればそうも言ってられない。
しかし、それをそのまま言ってしまうと彼女のプライドを傷つけてしまうかもしれない。
「本当にフェミニストなのね」
お嬢様はそういうと全てを見透かす様な目でこちらを見た。
自然と汗がコメカミのあたりから流れ落ちた。
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