薄墨の聲

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パートに色をつけるとしたら、何色なのだろうか。 ソプラノはきっと白だろう。アルトは青、いや群青だな。テノールは……そうだな、緑。いや、もう少し爽やか……黄緑か。少し薄めの、若草色に近い色。ベースは黒だ。深みのある素敵な黒。 じゃあ、私は? (……また) 拭い去れない違和感をまた感じる。私の声は、周りの声とあまりにも違いすぎた。 白なんかじゃない。かといって、群青に染まれる程深い声も出ない。色とも言えない、不可解な何か。 高い音域のスケールも、出しづらくなった。前まで出すのが楽しかったのに。……いや、元々出なかったんだろう。出せていた気になれたのは、周りをちっとも見ていなかったからだ。 ……なんでソプラノだったんだろう。なんで私が。 「じゃあこれで発声を終わります、アンサンブルは五分後から! 」 目線を上げた。壇上には、正指揮者の先輩。歌は、めちゃくちゃ上手い。憧れる。ずっと憧れている。 先輩の声は、ただの白じゃない。ベージュ。クリームカラー。そんな、白に重みを足した色。 聞く度に、体の奥の奥へ染み込んでいくような。そんな歌声。嫌な重さじゃない、むしろずっと聞いていたいくらい。 ……私も、ああなりたい。 「詩ちゃん」 隣の同期の声で、はっと我に返った。 「あーっ、ごめん! 」 慌てて列を抜けて、自分の荷物の元へと向かった。邪魔だよ、と聞こえたのはまた自分の悪い妄想癖だろう。 (……ああ) 嫌いだ。 自分の声も、このパートも、同期も。 私は鞄から楽譜を抜いて、口を固く結んだまま楽しそうに話す同期たちに背を向けた。
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