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「君は、『ドール』としての僕を、愛してくれた。だから、僕は『ドール』のまま……『夫』のまま、役目を終えたいんだ」
「ねえ。そんな、悲しいことを言わないで」
「これは、『夫』としての頼みなんだ。――君を独りには、したくない。でも、縛ることも、したくない」
「縛る、だなんて」
「生活費と、外出時間。……支出の変化に、気づいていないわけがないだろう?」
レンは、また、なにも言うことができない。
彼を支える供給ボックスにしろ、日々のメンテナンスにしろ、それらの諸費用は増していくばかりだったから。
「だから、レン。……僕のシステムを、停止してほしい。それが僕の、最後の願いだ」
「……私のシステムを、あなたが停止することは、できないのに?」
『ドール』としての寿命。社会から廃絶される定めの、機械人形。
メンテナンスの手段も、法的な保護も閉ざされ、いつ消えてもおかしくない。
「でも、ケイ、でも……」
レンは、たくさんの言葉を模索した。
なのに、感情的な言葉しか、浮かび上がらない。
……レンもまた、自覚していた。
ケイの動作不良の発生率と、今後の未来。
彼の言うように、衰えたレンでは、莫大な費用がかかる彼を支える続けることは不可能だったからだ。
「……僕はもうじき、欠けはじめる。それは、はたして、君が愛した僕なのだろうか」
「あなたは、あなたよ。私の愛した、あなたなの」
近づいて、レンはケイの手を取る。
すると少しだけ、ケイの顔に、人間らしい柔らかみが戻る。
「なら、とても嬉しい。ありがとう」
レンは、ただ、ケイの手を握りしめることしか……できない。
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