異なる伴侶が遺すものは

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「『ドール』が、永遠の存在だという夢を、続けられればよかったのに。……そう、想うよ」 「――『滅びない者は、ない。老い、壊れないものも、また』。……ふふっ」  想わずレンは、乾いた笑いをしてしまう。  なぜならそれは、自分で書いたエッセイの中の、一文だったからだ。 「あの時は、そんな言葉を、当たり前だって想いながら書いたのに。……今は、とても冷たい言葉だって、想うわ」 「……そんな君の瞳と言葉に、僕は、惹かれたんだ」  ――人と『ドール』の、パートナー。  レンも惹かれ、ケイも願い、二つの形は夫婦となった。  互いに譲らず、周囲に抗い、今に至るつながりを保ち続けた。 「だからこそ、今の君を抱いたまま、渡したい。僕の見た、視界と記憶のデータ。僕が見た、君の姿を。全て、壊れてしまう前に」 「……頑固ね。そう、頑固だったわ。私が言っても、聞いてくれない時、多かったもの」 「でも、それを君は、楽しんでくれた」 「ええ。そんな、あなただから……好きになった」 「レン。僕を愛してくれて、ありがとう」 「……私もよ、ケイ」  優しく、レンはケイの首元へと手を添える。  小さく、マスター権限を発現する、パスコードを囁きながら。 (……こうして、認証するために触れるのは、パートナーになった時以来よね)  指先の温もりは、あの時と同じ。  なのに、今のレンが感じている想いは、ずっと抱いてきた希望と真逆のもの。 「……見守っているよ。ずっと、君のことを」  ケイは、淡々とそう告げる。  なのにそれは、先ほどのまでのどこの言葉より、感情的なものに想えた。  ――けれどレンは、ただ小さな声で、答えることしかできなかった。  ――『夫』の望みを叶える、眠りの言葉を。
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