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――彼との関係は、今でも、ありえないと言われる。
しばらくぶりに袖を通した服は、おかしくないだろうか。
同窓会に参加しながら、レンはそんなことを考える。
とはいえ、昔なじみの喫茶店で集まっただけの、簡易的なパーティー。そこまで気にする者もいないようで、和やかな雰囲気が続く。
レンは安堵の心中で、みなの会話に耳を傾ける。
「……で、みんな。うまくいってるの」
ある一人が、そんな話題をふる。仕事のことか、子供のことか、老後のことか。
いろいろ思い当たる節があったけれど、どうやら夫のことだったらしい。
「わかってるわかってる、なんて言いながら全然わかってないのよ。口だけ!」
「出会った頃とは別物よね-、あの時の情熱を返せって感じ」
「そういえばいましたね、そんな人が」
とても本人には聞かせられないような言葉が、次から次へ。
ただそれは、相手のことをよく知った上での不満だから、共感も深い。
「でも気になるのは、やっぱりレンよね」
突然話をふられ、レンは戸惑う。
「気になるって、なにが」
またまた、と、周囲の視線。
「時代の先を行っていたもんね、レン。学生時代から大人っぽかったし」
「一部では流行ったけどねぇ、『ドール』の恋人」
「とはいえ、すぐに廃れちゃったのはあるけど」
「国の法規制に、メンテナンスの手間。生身の旦那だって大変なのに、それ以上」
「『ドール』ってさ、昔の映画みたいに永遠の恋人だって言われてたけど……レンのエッセイで、夢破れた感じよね」
「じゃあ、ダンナは最高なの?」
「まさか!」
昔書いたエッセイの内容を、よくもみんな、そうも記憶しているものだ。
レンは苦笑しながら、手元の紅茶を口に含む。
――彼女のパートナーは、『ドール』。
人間によく似た形と思考を持つ、人間によって造られた、超高性能アンドロイド。
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