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「彼との生活エッセイ、昔読んだわよ。理想的で少し苦い生活、羨ましいって想ったもんだわ」
「……"みんなと一緒よ。彼は、ただ、そうして生まれただけ"なの」
エッセイにも書いた序文を読み上げ、レンは、ともに住む彼が何であったのかを想い出す。
『ドール』とは、偉大で哀れな超越者。人類の英知が造り上げた到達点であり、また、終着点でもある。
人間をはるかに超えるその知見と能力は、文明と科学をより発展させ、人々を驚かせた。
――あまりの性能により、人間達に疎まれ、その存在と力をまたたくまにすり減らされてしまったほどに。
(……だから私は、彼は素晴らしいんだと、そう伝えたかったのだけれど)
レンもまた、彼らの発展と衰退を、その眼で見てきた人間の一人だ。
ただ一点、彼女が少しだけ、人と違うところがあるとすれば。
「でも、残念ね。ずっと、彼と一緒にいたかったでしょうに」
「……ええ。そうね」
――すでに廃棄対象の型となっている『夫』を、今も愛し続けていることだった。
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