2人が本棚に入れています
本棚に追加
「君とパートナーになってから、もう、四十年になるかな」
唐突に、ケイがそんなことを口にする。
「……そんなに、経ってしまったのね」
鏡に映る自分の顔を見ながら、レンは、かつての自分を想い出そうとする。
だが、うまくいかない。あれだけ、ケイとともに写真を撮り、様々なメディアに出演したというのに。
「そりゃあ、お婆ちゃんになっちゃうわよね」
「……僕も、そうさ。君と出会った頃のようには、もう、動けない」
そう呟くケイは、けれど、レンの瞳には同じように映る。
顔も、ふるまいも、胸をときめかせた頃と同じように。
「君とともに、年月を、重ね続けた」
「……?」
そう呟くケイに、レンは少し違和感を感じる。
動きが鈍り、以前とは違う生活になっても、ケイはあくまでケイとしてふるまってくれた。 なのに、今日は……どこか、引っかかりを覚える。
(同窓会の、せいかしらね)
会場で言われた、永遠の伴侶。――あの当時、そうした存在を求めた女達は、確かにいた。
人間を超え、人ならざる美しさを持ち、衰えない姿を持った『ドール』。
彼らとの結びつきは、一時、異端ながらも憧れを持った、夢物語の一つだった。
孤独への不安、老後への恐れ、異性との距離感。そうした要素が高まった背景も、あったのだろう。
『ドール』としての機能を制限され、あえて鈍さや愚かさも加えられた彼らは、逆にとても魅力的だったとレンは想う。
また、当時は『ドール』への賛否が分かれ、人として扱うべきだという機運も残っていた。
「今も、夢を見ている子はいたわよ。あの当時、やっておくべきだったって」
そうした社会的な要望が高まった中で、試験的に導入されたのが、『ドール』とのパートナー制度だった。
「僕の仲間達も、戸惑いながら、嬉しそうではあったね」
あの当時は、あらゆる情報や話題に事欠かなかった。
ケイは、懐かしそうにそう呟く。
最初のコメントを投稿しよう!