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「でも今は、ずっと静かだ。スタンドアローン運用しか、できないから……」
「ケェイィ?」
咎めるようにレンが低い声を出すと、ケイは口をふさいで言い直す。
「……自分で考えることしか、できないけれど」
自分の能力が制限されたことを、ケイは人間のように言い直す。レンが、あまり好まないからだ。
本来、『ドール』にはあらゆるデータへ瞬時にアクセスできる、強力な通信機能がある。だが、度重なる法改正により、ケイのシステムバージョンはその規格から外されてしまった。
今のケイにあるのは、今まで蓄えた知識と解釈、自分で思考し記憶するパーソナル領域のみ。
「いいのよ。人間だって、本来、そうなんだから」
そして、人間は記憶も知識も、忘れていくようにできている。機械的に、補助が可能となったとしても。
……であるならば、『ドール』が衰えたとしても、なんの違いもないはずだ。
(パートナーであることが、なにか違うとは、想えない)
――人間も『ドール』も、手入れは必要だ。
いくら再生医療が発展し、科学技術が改良されようとも、時間からは逃れられない。
(なら私は、心地よい相手を選びたい)
大切なのは、ケイとの心地よい一時。
そう信じるレンは、彼の手元を見つめ、話題を変える。
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