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「えっ……?」
ケイは、次の言葉を続けない。
ただ、レンの言葉を、待ち続ける。
「ち、違うわ。他の仕事が忙しくて。ほら、人気のあのシリーズも最終章で……」
「いくらオフラインでも、情報を調べる方法はあるよ」
――彼の観察眼と記憶力が鋭いことを、知っていたはずなのに。
レンは、彼を衰えを甘く見ていたことに、眼を伏せる。
「君の行動記録や、部屋でのデータ移動量を確認すると……最近は、そもそも執筆をあまりしていないみたいだ」
ケイの言葉に、レンは何も言うことができない。
それらが、全て真実であり、気づいてほしくなかったことだからだ。
「……僕が、君の満足を、えられていないから?」
「違うわ」
一瞬の間もおかず、レンは答える。
それだけは、言える。――『ドール』として、崩れかけた彼が、嫌になったわけではない。(でも……その姿を、記すことは……)
想い悩むレンの前で、すっと、ケイは自分の頭部に触れる。
「記憶や記録が、よく、欠けるんだ。思考も、まれに飛んでしまう。自分でも、気づいているんだ」
「……拡張を、してもらえるわ」
「僕のシステムに適合するデバイスは、もう存在しないよ。知っているだろう?」
否定する言葉を持たないレンに、ケイは、たたみかけるように告げる。
「現行維持のままでは、近い将来、僕は動作不全を起こす。人間でいう、認知症やアルツハイマーのような状態に」
――そんなこと、言われなくても、レンにはわかっていた。
何度も、何度も、修理者であるミス・ケリーにも忠告されていたから。
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