『鮫の歯』

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 私が、大阪に出て十数年。実家は既に人手に渡っていたため、母方の親族を頼り、この地にやって来た。目的は、ある人物に会う為。沖縄で言うユタ、東北で言うイタコに近い存在で、スンリと呼ばれる巫女の一種。目の前にいる、小さな老人がそのスンリらしい。  歯をほとんど見せることの無い、独特の口調で彼女はボソリ。 「娘は、おるぅ。海でぇ待っとる」  ただそれだけの言葉で、涙が溢れ出した。この夏に亡くした五歳の娘。どうしてああなったのか、自分でも分からない。気が付いたら風呂場で溺れていた娘。元々上手くいってなかった妻は、それからしばらくして同じように、溺れて死んだ。私も酒の量が増えて、酒に溺れているから、皮肉なものだ。  苦しみやら、先のない未来やら、ストレスやら、凝り固まった何かを流し出すように、涙が止まらない。そのまま泣き疲れた体を、ズルズルと這いずるように、宿へ戻った。
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