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藤宮さんは記事を見つめながら力説した。新聞紙には唾が飛んで濡れた跡が付いた。
若いやつらは根性が足りん、どいつもこいつもゲームばっかりしてる、というのが最近の藤宮さんの口癖だった。
「ま、坊は例外だけどな。今どきの若者とはちょっと、いや、だいぶかけ離れているもんな」
誉め言葉なのかけなされているのかわからなくて、僕は曖昧に半笑いで頷いた。
確かに、僕はゲームをあまりやらないから、藤宮さんの言う若いやつらには該当しないのかもしれない。
しかし、ゲームをやらない若者だって僕以外にもたくさんいるのに。
「おっと。もうこんな時間だ。坊、俺は朝飯を食って仕事に行くから。また明日な」
藤宮さんは、新聞紙をパンパンと伸ばし、それから雑にたたんで腰を上げた。
「藤宮さん、今日こそは勝てるといいね。」
藤宮さんの言う仕事とは、パチンコのことだ。
といっても、パチンコの会社で働いているわけではなくて、パチンコを打ちに行くのだ。通算ではかなり負け越しているはずだから、藤宮さんの働きはパチンコ会社へと還元されていくのだ。
「任せておけ、坊。天気もいいし、今日は勝てる予感がする」
「天気は関係ないと思うけどね。でもあんまり長居しちゃだめだよ」
身体の具合も良くないんだし……。
という言葉が出かかったが、飲み込むことにした。藤宮さんのことは心配だが、身体のことは本人が一番わかっているだろうし、何より、気分がよさそうなときに、水を差すようなことはしたくなかった。
しかし、当の本人は、僕の忠告など耳に入っていなかったらしい。右手で肩を揉みながら、何やら不気味な笑みで海を見つめている。空想の出玉に思いを馳せているのかもしれない。
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