百つ目の夜咄

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「……さて、最後の話だ。」  ふと気が付くと老人の手元には一つの蝋燭があった。白い身がどろりと溶けて燭台に垂れ落ちていく。老人の顔を、部屋の中をわずかに照らす橙色の光。最後の一本。この部屋を守る最後の結界だ、と老人は相変わらず淡々と話す。 「百物語はな、そもそもその話が『本当の話か嘘の話か』を見極めるために始まった。本当の霊の話はまた霊を呼ぶ。そうしてやってきた霊たちから身を守るために火をたく。……それがいつの間にか話をしたら火を消す、というものに変化していった。だから、百つめの話をすると怪異が起きる。当然じゃな」  ニヤリと老人の口端が上がったような気がした。もしかしたら揺れる灯りで照らされた影のせいかもしれないが、それを確かめるすべはない。私はここから動けない。 「これまであった九十九の話の中にも本物の話はあった。その証拠に突然障子が揺れたり、風で掛け軸が落ちたりしただろう。……儂の話が終われば火は消えて結界も消える。わしの話が嘘だろうと結界は消える。本当ならば、霊を呼ぶ。これで百つめの怪談話は終いだが……はてさて、何が起こるやら。」 老人は今度こそニヤリと笑むと、ふっと息を吐き出した。 ふぅっ 灯が消える。
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