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やれやれと肩をすくめ、イェンはツェツイの身体を抱き上げる。そして、おもわず眉をひそめる。
ほんとにこいつ、軽いな。
腕にかかる重みは信じられないほど軽く、柔らかかった。抱き上げたと同時にぼんやりと目を開けたツェツイが、首に手を回してきゅっとしがみついてきた。
「あらあら、すっかり懐かれちゃって。可愛い子じゃない」
くすくすと笑うアリーセを、イェンは一瞥しただけであった。
「どうした?」
「もうお腹いっぱい。楽しかった……」
「そうか。よかったな。眠いんだろ。もう寝ろ」
「お師匠様といっしょ?」
「寂しいのか? アリーセが一緒に寝てくれる」
ツェツイはふわりと笑った。
「お師匠様……ありがと……ございます……」
「いいから」
寝ちまえ、とツェツイの耳元で囁いて、あやすように背中を叩くと、安心したのか、くったりとなってすぐに安らかな寝息をたてて眠ってしまった。
ツェツイの身体から、ふわりとミルクのような甘い香りがした。
「それはそうと」
椅子に腰を掛けたアリーセは、ポケットから煙草を取り出し火をつける。
「あんた、気づいているでしょう?」
扉に向かって歩きかけたイェンは、アリーセの問いかけに何が? と、肩越しに振り返る。
「その子」
アリーセはふうと煙を吐き出し、葡萄酒がそそがれたグラスに手を伸ばす。
「すごい魔力を内に秘めてるよ。うまくその子の眠っている能力を引き出してあげたら、とてつもない勢いで成長する」
と、グラスを傾け上目遣いにイェンを見上げる。
しばし、目を見合わせる二人。けれど、イェンは無言で肩をすくめただけであった。
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