3 だったら何故?

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「アルト、ノイ、行ってらっしゃーい」 「おう! 行ってくるぜ」 「帰ったら、遊ぼうぜ!」  ツェツイとイェンに見送られ、双子たちは教材片手に元気よく学校へと走って行く。  そんな、彼らの背中を見つめ、にこやかに手を振っていたツェツイの表情がふと陰った。  父が他界してから、母ひとりでツェツイを育ててきた。  その母も病で倒れて亡くなり、以来、ツェツイは学校へは行っていない。  生活するために、働かなければならなかったからだ。  とはいえ、働くとはいってもまだ十歳の子ども。たいした仕事などあるわけもなく、母の知り合いが営んでいる町の食堂で、好意で働かせてもらっているのだと、ツェツイはぽつりと語った。  ツェツイにもできる簡単な仕込みの手伝いや、皿洗い、店内の清掃といった雑用がおもだ。  振っていた手を下ろし、ツェツイはふと首を傾げてイェンを見上げた。 「そういえば」 「何?」 「お師匠様は学校には行かないのですか?」 「学校? んなもん、行くわけねえだろ」 「え! サボりですか? 進級できなくなりますよ」 「おまえなあ。俺を何歳(いくつ)だと思ってんだよ。ていうか、お師匠様はやめろって言ってんだろ。おまえの師匠になった覚えはねえぞ」  しかし、ツェツイは聞いていない。  首を傾げたまま、うーんと唸った。
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