1 師匠になってください!

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 風がさわりと吹き抜けた。  その風とともにしんとした沈黙が二人の間を流れていく。  首の後ろで一つに束ねられたイェンの長い黒髪が背中で揺れる。細身の長身にしなやかな身体つき、整った容貌。女性を惹きつける魅力と危険さがあった。  ややあって、ツェツイはゆっくりと視線を上げた。その目の必死さから、どうやら冗談やふざけているわけではなさそうだ。  イェンは困ったと左手で頭をかく。  その手首には腕輪がはめられていた。  それは〝灯〟に属する魔道士の証。  世界に平和と希望の(ともしび)を。  魔道士はこの世界では貴重な存在であり、重宝されている。  それゆえ、どの国にも必ず〝灯〟という魔道士組合的な存在があり、魔道を志す者に研究の場を提供する機関である。そして、国と〝灯〟は密接な関係を持ち、魔道士はその能力を国のために、国は魔道の研究費を援助するという仕組みになっている。  上級魔道士になれば華々しい将来は約束されたも同然。さらに最高位ともなると国王の側に仕えるくらいだ。  しかし、誰でも魔道を志すことはできるが、その誰もが魔道士になれるわけではない。どれだけ努力をしても、すべては持って生まれた才能がものをいう。そして、〝灯〟は階級がすべての実力世界。  ちなみにイェンの階級は初級である。言わずもがな〝灯〟では下っ端だ。  華々しい地位にはほど遠く、力量も底が知れている。 「いきなりそんなこと言われても困るし」  心底困った顔でイェンは少女を見下ろす。 「でも、あたし感じるんです。お師匠様の身体から放たれる、突き刺さすような熱く猛々しい魔力にあたし……」  ツェツイは、ぽっと頬を赤く染めた。 「どうにかなっちゃいそう……」 「どうにかなっちゃいそうって……」  こっちの頭が理解できずにどうにかなっちゃいそうだ。  何やらとんでもないのに声をかけられてしまった。
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