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今でも忘れられない思い出がある。
幼い私と妹、そして母。
3人で母の実家の四国に帰省をする道中のことを。
「新今宮~新今宮です。南海線、地下鉄線はお乗り換えです。」
「準備して。降りるで」
そう母にせかされて、乗り換えをする。
JRと南海駅の連絡通路を渡り、南海本線のホームにたどり着く。
「ママ!写真撮ってきていい?」
電車とカメラが好きだった私は、お出かけの時は常にマイカメラを持っていた。
マイカメラと言っても、上等なものではない。
雑誌の応募者全員サービスで手に入るものであった。
けれども、市販のフィルムがをセットし現像もできる立派なカメラであったのだ。
新今宮駅でどうしても撮りたかった電車、それは「ラピート」である。
青い車体に先頭の丸いフォルム。
丸い窓におしゃれな車内。
いつも利用している特急サザンとは違い、特別な列車のように思えたのであった。
それは、「空港行」という特別な車両だったからなのかもしれない。
サザンに乗って、船に乗って四国へ行くのではなく、ラピートに乗って、空港に行って、世界中のどこかへ旅立つ。
飛行機で旅行をしたことがない私にとっては、飛行機も憧れの乗り物であったのかもしれない。
とにかく、どこか遠くへ旅立つ人を乗せるラピートは私にとっては特別な列車であったのだ。
「特急ラピート、到着します」
アナウンスが流れるとともに、ホームの端っこに向かって走り出そうとした。
「あんまり端っこ行ったら落ちるで。この辺からにしとき」
のんびりと椅子に座ってお菓子を食べている母に言われ、しぶしぶ母の目の届く範囲から撮ることにした。
並んでいる人たちの中には、大きなスーツケースを持っている人もいる。
この人たちは、どこへ行くのだろうか。
中には、私と同じくらいの年の人もいる。
私と同じで、おばあちゃんに会いに行くのだろうか。
そんなことを考えていると、ホームの端からキラリと光る青い頭が見えた。
来た!
カメラを構え、シャッターチャンスを待つ。
ゆっくりと近づいてくる電車にドキドキしながらボタンを押す。
パシャリ!
撮れた!
「ママ!撮れた!」
「え、ほんま?ぶれてない?」
「うーん・・・たぶん大丈夫!早く見たい!」
「そうやな。四国から帰ってきたらカメラ屋さん行かなあかんな」
「めっちゃ楽しみ!」
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