2章 学院の生徒たち

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 中庭でバラを剪定していた園丁に話をし、白いものを何本かを分けてもらう。そして二人で向かったのは、学院の敷地の奥にある北寮だ。ジェレミーが、毎日寝起きしていた場所。  三階建ての北寮の建物に沿って迂回すると、植え込みの陰の地面に、いくつか花が供えてあるのが見えた。アルベールの胸に、ぐっと込み上げてくるものがある。  しばしその場所を見つめてバラを供え、レイヴィスと二人、並んで頭を垂れる。微風が吹き、胸許のリボンタイをもの悲しく揺らしていった。 (ジェレミー。……)  胸の中で、そう呼びかける。それだけでもいまだ癒されない悲しみが噴き上がり、心臓が潰れてしまいそうになる。  毎年の夏季休暇、三人のうち誰の別荘に行くか相談するのは、悩ましくも楽しいひとときだった。子供部屋で夜更かしして互いの学院の愚痴をこぼし、海では泳ぎ、高原では乗馬をし、山ならば、捕虫網を片手に蝶を追いかけ……そうだ、美しい蝶たちの魅力を教えてくれたのは、他ならぬジェレミーだった。彼と一緒に図鑑を囲み、宝石のような翅を持つ蝶たちを、胸ときめかせて眺めた。  だけどあの夏は、もはや二度と廻り来ない。  枯れたはずの涙が浮かんでくる。三人で育んできた一角が崩れ、もう決して元に戻ることはないなんて、今もまだ信じられない。  アルベールは、静かに訊ねた。 「レイが……見つけたんだって?」 「ああ」  レイヴィスがうなずく。 「あの日の前の晩、消灯後に部屋を抜け出して、北寮の友人のところでポーカーをしてたんだ。仮眠して、早朝点呼の前に自分の寮に戻ろうと、裏口からこっそり外に出た。そしたら……制服姿の生徒が一人、地面でうつ伏せになってて……近づいて顔を見たら……」 「っ、……!」  その時レイヴィスが味わった衝撃と絶望を思い、アルベールはぐっと胸を詰まらせた。自分の眼前にも、冷たい地面に投げ出された従兄弟の、無惨な姿が目に見えるようだったからだ。
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