第一章 スコアブック

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 スコアブックに心を奪われていた私に耳に、自転車のベルが響く。  続けて、けたたましいブレーキ音が聞こえる。 「パンパー。ただいまー。今日は二本ヒット打ったよ」  秀彰の甲高い声がした。パンパというのは、秀彰が私を呼ぶときの呼び方である。 「ただいま」  智宏の落ち着いた声が続く。 「試合の結果はどうだったんだ」  と聞くと 「んー。まあまあかな」  とそっけない答え。  智宏が六年生、秀彰が五年生の年子で、二人とも地元の少年野球イーグルスに所属して いる。 「7対2、10対8で二試合とも勝ったんだけど、二試合目は兄ちゃんがリリーフで8点 も取られたんだよ」 「うるさいな。お前だってチャンスには凡退だったじゃないか」 「智宏選手が怒っているよ。ニャシャ・ニャシャ・ニャシャ」  秀彰が智宏をからかって妙な踊りを踊ってみせる。
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