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「あら、帰ってたの」
二階から母さんの声がした。
「ごめんね。中が散らかってるから、ちょっと待っててね。手が空いたら、外でオヤツに
しましょう。あら、お父さん、何やってるの」
しまった。油を売っているのが女房殿に見つかった。
「いやぁ、ちょっと懐かしいものを見つけたもんだから」
とスコアブックを振ってみせた。
母さんはそれで納得したのかどうなのか、しょうがないわねといった体で頷き
「夕方までには荷物を物置にしまって頂戴ね。お願いしますよ」
と言いながら二階の部屋に引っ込んだ。
「お父さん、それ何?」
智宏が側にやってきた。
「何々。パンパ」
と秀彰が割ってはいる。
「これは、お父さんの少年野球時代のスコアブックだよ」
「見せて見せて」
「お父さんの記録も載ってるの」
二人が争ってスコアを覗きこむ。
「待て待て、そんなに慌てなくても、いま見せてやるよ」
と私は子供たちを制し、それから、ちょっと勿体つけて
「いいか、ここには凄い記録が残ってるんだぞ」
と付け足した。
「えー。何々。それってお父さんの記録なの」
秀彰が興味津々の顔を私にむけた 。
「うーん、お父さんも少しは関係しているかな」
そうだな。このことは子供たちに話しておいた方が良いかも知れない。
私は、頭の中で事の成行きを整理すると、カレンダーを20年前に戻して話を始めた。
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