第一章 スコアブック

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「あら、帰ってたの」  二階から母さんの声がした。 「ごめんね。中が散らかってるから、ちょっと待っててね。手が空いたら、外でオヤツに しましょう。あら、お父さん、何やってるの」  しまった。油を売っているのが女房殿に見つかった。 「いやぁ、ちょっと懐かしいものを見つけたもんだから」  とスコアブックを振ってみせた。  母さんはそれで納得したのかどうなのか、しょうがないわねといった体で頷き 「夕方までには荷物を物置にしまって頂戴ね。お願いしますよ」  と言いながら二階の部屋に引っ込んだ。 「お父さん、それ何?」  智宏が側にやってきた。 「何々。パンパ」  と秀彰が割ってはいる。 「これは、お父さんの少年野球時代のスコアブックだよ」 「見せて見せて」 「お父さんの記録も載ってるの」  二人が争ってスコアを覗きこむ。 「待て待て、そんなに慌てなくても、いま見せてやるよ」  と私は子供たちを制し、それから、ちょっと勿体つけて 「いいか、ここには凄い記録が残ってるんだぞ」  と付け足した。 「えー。何々。それってお父さんの記録なの」  秀彰が興味津々の顔を私にむけた 。 「うーん、お父さんも少しは関係しているかな」  そうだな。このことは子供たちに話しておいた方が良いかも知れない。  私は、頭の中で事の成行きを整理すると、カレンダーを20年前に戻して話を始めた。
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