0人が本棚に入れています
本棚に追加
走る
走る。
走る。
走る。
暗闇の中を俺はひたすらに、走る。
俺を止めようとするやつなんてどこにも居ない。
俺も止まるつもりなんてない。
でも何故だろう。
漠然と、今日、止まる気がするのだ。
■◇■
「夢か……」
彼は目覚めた。
眠い目を擦りながら、夢を思い出す。
洗面所で顔を洗い、自らと向き合う。
冴えない目、そして、疲れた顔。
思わず苦笑した。
今日の彼の予定を、夢は知っていたらしい。
それもそうだろう。
夢とは、彼の意識なのだから。
いつもよりも少し遅く家を出た彼は、当ても無くフラフラと歩き回った。
特に急ぐ様子もない。
フラフラとひたすら歩く。
何処も見慣れた場所……の筈だったが、彼は何故か新鮮味を覚える。
いつも自分が乗っている深緑色の電車が、ガタゴトと音を立てながら彼の横を疾走していった。
いつも、汗だくで乗り込んでくる彼を冷たい目で見るOL、鞄を抱えて眠る中年男性、単語帳を眺める男子学生、ずっとスマートフォンを握って離さない女子高生。
彼らの顔がぼやけた男の脳裏にゆらゆらと現れた。
しかし今日は、走る必要が無いのだ。
最初のコメントを投稿しよう!