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電車に乗り込むために走る必要も、時間を気にして駅から走る必要も。
時に空を仰ぎ見ながら、彼はひたすら歩く。
「疲れたな」
歩いているだけだが、不意に疲労感が彼を襲った。
仕方が無い。
もう少し先に公園があったことを彼は思い出し、気持ち早めに歩き始める。
公園は、スグそこだった。
ベンチを見つけて座る。
空は曇っていた。
雨は降らない筈だ、と昨晩のニュースを思い出す。
ふと、彼は、ズボンのポケットから無造作に一枚の紙切れを取り出した。
彼の字が書かれた紙。
出来るだけ丁寧に書いたつもりだったが、やはり見返してみれば穢きたない。
「これも俺なんだよな」
ポツリと呟く。
そのまま彼は上着の内ポケットにそれをしまいこんだ。
なるたけ、丁寧に。
そんな彼を、不意に風が襲った。
ザワザワと木の葉が音を立てる。
心なしか、風が強く感じる。
雨が降るかもしれないな、と彼は直感したが、別にだからといって何かしようという気にもなれなかった。
「なにしてるの」
突然声をかけられ、声のした方を向くが誰もいない。
───いや、いた。
座っている彼の座高よりも随分低い位置に彼女の頭があった。
見知らぬ子だ。
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