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いや、何となく何処かで見たような気もするが、子供の顔などそういうものだろう、と彼は思った。
「別に、何もしてないよ」
彼は、素っ気なく答えた。
誰かと関わりたい気分ではなかったのだ。
しかし、少女はお構いなく続ける。
「ねぇねぇ、走るの、好き?」
彼は、動揺を隠せなかった。
しかし、相手は子供。自分よりずっと子供なのだ。
だから、彼は出来るだけ優しく答えた。
「いいや、そんなに好きじゃないかな」
「そうなの? 走るの嫌?」
少女はまだ質問したりないらしい。
クリクリとした目が、男の顔を覗き込む。
「嫌、では無いよ。前は好きだった」
事実、彼は走るのが好きだった。
いつまでもどこまでも走っていたかった。でも何時いつからだろうか。どれだけ走っても、走っても、必ず誰かが彼を追い抜かしていく。
「じゃあ、かけっこしようよ」
彼女の提案に、男は顔をしかめる。が、もう既に少女は走り出していた。向こうの方で手を振っている。
「仕方ない、か」
彼の性分的に、放ってはおけなかった。
昔の自分を思い出しながら、身を低く構える。ふと、懐かしい思いに駆られた。
「よーい、ドン!」
鈴の音のような掛け声を合図に飛び出した。
地面を蹴る。
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