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公園の白っぽい土を小さく抉りながら、あっという間に向こう側まで駆け抜けた。彼が走った後には黒っぽい小さな点が等間隔に並んでいる。
彼の走りを見た少女は丸い目をさらに丸くした。
そして、手を叩いてはしゃぐ。
そんな姿を見て、男は小さく笑った。
「昔は、みんな、俺が走れば笑ってくれていたのにな」
男の独り言は、少女にも聞こえていた。
少女には、彼の言いたいことが伝わらなかったのかもしれない。
小さく首を傾げていた。
だが、その言葉の裏の悲しみに似た何かを受信したのか、彼の服の裾を小さく掴んだ。
「私、お兄さんが走ってるの好きだよ。いっつも、走ってるの見てるよ」
男を見上げ、ニッコリと笑って彼女はそう言った。
彼は、驚いた。
彼が何か言う前に、少女が続ける。
「今日は、お兄さんが走ってるの見れなかったから寂しかったの。でも、今日は、こんなに近くで見れたの」
彼は、言いかけた言葉をグッと堪えた。
「もう明日から見れないかもね」
という言葉を。
胸元をさする。
硬い紙の感触が……
「あれ、ない」
先程の紙切れがない。
振り返ると、彼の走った足跡の上に落ちていた。
ハッと気づいた時には遅かった。
彼が走り出す前に、強い風が吹いて何処か、彼方へと飛んで行った。
もう、追いつけない。
「あれ、なあに」
少女の問いに、何も答えられなかった。
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