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だって、あれは……
■◇■
「夢……?」
ムクりと身体を起こす。
カーテンの隙間から小さく光が差し込んでいた。
時計の針が、今は朝だと知らせてくれていた。
ベッドの横のテーブルに目をやると、白い紙切れが見える。
手に取った。
穢い字だ。
『私、お兄さんが走ってるの好きだよ』
ふと、夢の中の少女の言葉が脳内に響いた。
もう一度、彼は時計に目をやった。
今からなら、まだ、間に合う。
身支度をそこそこに部屋を飛び出す。
走ったおかげで、電車には間に合う。
あの公園に差し掛かった。
内ポケットから、あの紙切れを取り出す。
公園に踏み込んだ彼は、ふと思い出した。
そうだ、あの少女は……
紙切れをビリビリに破く。
公園のゴミ箱へ投げ捨てた。
駅に向かって歩きながら、彼は電話をかけた。
三コール目で繋がる。
久しぶりに聞く、懐かしい、母親の声だった。
「あぁ、もしもし。母さん?」
『どうしたの? あんたが電話寄越すなんて珍しいわね』
「ほら、幼稚園の頃に陸上で一緒だった知恵の命日、あれ、いつだっけ」
『え? あぁ、再来週の土曜日だわ』
「そっか。ありがとう。じゃあ切るね」
素っ気なく電話を切ろうとした。
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