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③ 背中
いつも通りに、夜明け前…昂士は別荘を出る。
目の前にある景色は変わりなかったが──ここに至るまでのことは、違っていた。
ベッドに、ライがいた。24時間前はまだ、存在も知らなかった男だ。
昨日のいま頃、浜辺に出て見つけ…最初、人とも思わず、溺死体と思った男だった。
それを──自分のベッドに寝かせてしまった。
そのことについて、いまは考えず、昂士は坂道を下る。
昨日、ライを抱きかかえて登ったことが、オーバーラップする。
その記憶もやり過ごして、浜へ出た。
──今日はさすがに、何も流れ着いていない、か。
いつも通りの景色を見つめ、それに納得してから、ポケットからスマートフォンを取り出す。
ゆうべ遅く、島の知人男性に、メールを送った。
『うちの下にある浜に、人が流れ着いたことがある?』…と。
すぐに返信がきていたが、気づかずに就寝してしまった。いま、あらためて、メールを読み直す。
『どざえもん? その辺に流れ着いたなんて聞いたこともないよ』
今日にでも、「変なメールくれたけど、何かあったの?」と、やって来そうだ。
気遣いの人だし、同じ病気である昂士を心配してくれている、叔父の親友だった男だ。
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