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中からフックを回して施錠する鍵だった。そして、その外側はマイナスの凹みになっている。確かに、硬貨などを挟んで回せば、中のフックを回転させて、開けることは可能だが…
誰が、そこまでして、中の人に無許可に入ると思うだろうか…
少なくとも昂士は、そんなことをされると思ってなかった。
「昂士さん、ごめんなさい。でも、俺、傷が痛くて…」
「え…?」
昂士は少し不機嫌にはなったが、怒ってはいなかった。それに、そういう感情はいっきに霧消した。
「傷が痛む?」
「それで、昂士さんに声をかけたんだけど…返事がなくて。回せば入れるドアだと思ったから、そうやって入って…でも、昂士さん、よく眠ってて。起こすの申し訳ないなと思ってたら、なんか、ここでだったら寝れそうだと思って…」
「ここでなら寝れるって…」
寝れたとしも、痛みがなくなるわけではないし、医者である昂士には、様々な心配が加算されてゆく。
「怪我の様子を見せて」
ライの肩口を見ようとして、昂士の顔が近づく。ベッドライトに照らされ、男らしい鼻梁とくっきりした二重の目が際立った。女にモテるだろうな、と、ライは思った後、
「昂士さんの傍にきたら、本当に痛くなくなった。…それに、ここのベッドはやわらかいけど、あの布団は堅くて…」
と、言って、傷口を見せるのを拒んだ。
「…あぁ、そうだね」
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