② 体温

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 生前、叔父が買ったベッドだった。その当時は、時代が派手だったし、豪勢なベッドを選んだのだろう…か。…そんな叔父ではないから、家具屋に押しつけられでもしたか、恋人と一緒に過ごす為に──  ……そんなことより。 「真っ暗なのに、よくベッドが見えたね」  島の僻地に建つ別荘で、周囲には民家も街灯もない。特にこの部屋は山側で、電気を消せば真の闇になるのだ。 「…あ、それは、月明かりだよ」 「月が…? あぁ、そうか」  海側に浮かぶ月明かりが、どの程度、この部屋に明るさをもたらしたか微妙だが、昂士は月がいつ出て、どういう筋道を辿るかなど、まるで興味がないらしい。いま、どの月齢かも考えずに、信じた様だ。 「…昂士さん」 「ん?」  ベッドライトを消し、再び、暗黒になった中で、ライの声が浮かび上がった。  ライは左肩を上に、寝ていた。昂士は、何となく背を向けたかたちで横になっている。…顔を見合わせるのは、他人同士として気遣い、遠慮したのだ。  …そのことを、咎められるのだろうかと、何故か、昂士は思った。 「本当に、ありがとう…」  ひどく、幸せそうな声だった。それから少しして、ライの自然な寝息が聞こえてきた。  昂士は、今度はぶつけない様に静かに、ライの方をふり返る。  そうしたところで見えるわけはないのだが──今朝まではここになかったぬくもりが、確かにそこに、あった。
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