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生前、叔父が買ったベッドだった。その当時は、時代が派手だったし、豪勢なベッドを選んだのだろう…か。…そんな叔父ではないから、家具屋に押しつけられでもしたか、恋人と一緒に過ごす為に──
……そんなことより。
「真っ暗なのに、よくベッドが見えたね」
島の僻地に建つ別荘で、周囲には民家も街灯もない。特にこの部屋は山側で、電気を消せば真の闇になるのだ。
「…あ、それは、月明かりだよ」
「月が…? あぁ、そうか」
海側に浮かぶ月明かりが、どの程度、この部屋に明るさをもたらしたか微妙だが、昂士は月がいつ出て、どういう筋道を辿るかなど、まるで興味がないらしい。いま、どの月齢かも考えずに、信じた様だ。
「…昂士さん」
「ん?」
ベッドライトを消し、再び、暗黒になった中で、ライの声が浮かび上がった。
ライは左肩を上に、寝ていた。昂士は、何となく背を向けたかたちで横になっている。…顔を見合わせるのは、他人同士として気遣い、遠慮したのだ。
…そのことを、咎められるのだろうかと、何故か、昂士は思った。
「本当に、ありがとう…」
ひどく、幸せそうな声だった。それから少しして、ライの自然な寝息が聞こえてきた。
昂士は、今度はぶつけない様に静かに、ライの方をふり返る。
そうしたところで見えるわけはないのだが──今朝まではここになかったぬくもりが、確かにそこに、あった。
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