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十二月の始めに
鈴本稔が余命宣告を受けてから三ヶ月が経つ。家族と医師は最期は実家で過ごしたいという彼の意思を尊重した。激動、と表現して差し支えのないほど波乱万丈だった人生の最期が、これほど穏やかなものになるとは彼自身想像していなかった。
もう会社のことを考える必要も、いつまでもふらふらしている三男の心配をすることもなく、ただ夏から秋へと移り行く季節を穏やかに感じていた。
「あら、おじいさん体調は大丈夫ですか?」
天気がよく、外の陽に当たろうと庭に来た稔は縁側に座る京子を見つけた。その横に腰掛けた稔を京子が一瞥し、声をかける。稔はなにか言いかけたが、庭に孫達の姿を見つけて黙って頷いた。
「お茶でも煎れてきましょうか?」
稔はもう一度頷く。庭の中心には大きな桜の木があり、その下で遊ぶ孫達を二人でしばらく眺めてから京子が立ち上がった。現在稔の家には妻の京子の他に長男とその嫁、次男の家族四人と合計八人が暮らしていた。離れて暮らす三男と嫁いだ長女も時々様子を見に来てくれる。
夜は冷えるようになったとはいえ昼間は陽射しの下にいると汗ばむくらいの陽気だ。うっすらと汗をかきながら走り回る孫達が稔に気が付き手を振る。
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