十二月の始めに

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 稔の視線の先にはまたあの桜に木があった。葉もほとんど落ちた桜の木は稔が生まれる前からそこに立っていたもので、春になると家族が集まって花見をするのが恒例だった。一時期息子達と反りが合わず行われなかった年もあったが、孫が生まれて以来再び慣例化していた。  来年の桜はおそらく見ることができない。家族はそんなことないと言うが稔自身には分かっていた。せめて十二月の始めまで、結婚記念日まで生きられれば、そう祈りながらコップの麦茶を一口すすった。
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