十二月の始めに

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 稔の家から車で十分ほどの所にできたこのショッピングモールのおかげでこの町は劇的に変わった。ゆっくりとだが確実に進んでいた過疎化は食い止められ、テレビでも紹介されたこともあり若者が増え、遠く県外から足を運ぶ者もいるほどだ。建設当時は地元の商店街や自治体と揉めることもあったがその仲裁に入ったのが他ならぬ稔だった。会社としてショッピングモール建設に出資していた稔は地元では裏切り者呼ばわりされていたが、成功してからは手の平を返したように英雄扱いだ。その頃の旧友に会うと「もちろん思い出も沢山ありますが、それよりも未来を大切にしませんか?」という稔のスピーチをからかわれたりする。  日曜日ということもあり、どのテナントも大盛況だった。特に先日地元の情報番組で紹介されたクレープ店の行列は入り口付近まで伸びており、最後尾には「現在一時間待ち」という立て札があった。稔達はその行列を横目に目当ての店まで歩く。歩きにくいというほどではないがメインストリートには人が溢れていた。家族連れやカップルが多く、稔達の前を歩くのも仲睦まじそうに手を繋ぐ若いカップルだった。  前から走って来た子供が稔の杖にぶつかりそうになる。それを避けた拍子に稔は京子の左隣に並んだ。京子の横顔を盗み見る。小さく咳払いをして杖を左手に持ち替えた。 「あれ、恥ずかしくないんですかね?」  ふいに長男の嫁が目の前のカップルを指差し、彼らに聞こえないように小声で言った。見ると先程まで手を繋いでいたカップルの彼女の方がおんぶされている。 「いいですね、若いって」  嫌悪感をまとった嫁の言葉とは違い京子は彼らを微笑ましく思っているようだが、稔は京子の手を取ろうとした右手を引っ込めて再び杖を持ち替えた。  長男の嫁がよく行っているという店に入り、京子はグレーのコートを買った。紺色の方がいいのではないかという稔の意見はばっさりと無視されてしまった。
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