1人が本棚に入れています
本棚に追加
ショッピングモールに行った翌週から稔の体調は急激に悪くなり、結果的にそれが最後の外出になった。その日に買った赤いマフラーも庭に出る時にしかつけないままほとんど枕元に置かれていた。庭に雪がうっすらと積もり始める頃には、三日に一度医者が往診に来るようになり庭に降りることもできない状態だった。
「今日、明日がヤマですね」医者がそう家族に話しているのを稔は目を閉じたまま聞いていた。
その日の遅くに三男と長女も駆けつけ稔に話しかけるが、言葉を発するのも目を開けることさえもままならない。このまま眠ったらもう目を覚ますことはないのではないかというくらい自分の体を動かすだけの力もなくなっていた。
翌日目を覚ますと家族全員が稔のそばにいた。皆が稔の目覚めを喜び、胸を撫で下ろしているように見えた。「おじいちゃんご飯食べれる?」孫の心配そうな顔に稔は弱々しくも「食べる」と答えた。食欲はなかったが昨日までよりも体調はよく、体も少し軽く感じる。なんとか体を起こし、長女が口に運んでくれる雑炊をゆっくりと咀嚼した。
「食べたら少し休んでね」そう言って長女が布団をかけようとする。稔はそれを手で制した。
「せっかく集まってもらったのに申し訳ないが……」
そう言いながら立ち上がろうとする稔を子供達が心配そうに支える。
「申し訳ないが、皆出て行ってくれ……京子と二人にさせてくれ……」
それに一番驚いていたのは京子本人だった。皆お互いに顔を見合わせ、戸惑いながら部屋を後にする。最後に残った長男が「なんかあったらすぐ呼んでよ」と京子に声を掛けて出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!