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「十二月の三日、今日ですよね」
「え?」
「初めてあなたが私を見つけた日ですよ。知ってましたし、覚えてますよ」
「駅を出た所の床屋の前?」
「そうでしたね、友達と待ち合わせしてた時です」
「五十年も前のことなのに?」
「私には昨日のことのようですよ」
「なんで……」
「稔さんが私を見つけた時、私も稔さんを見つけたんですもの。早く声を掛けてくれないかなって一年も待ちましたよ」
「……驚きすぎて死にそうだ」
「その冗談笑えませんよ」
「なんでもっと早く言ってくれなかったんだ?」
「稔さんが言わないから。まさか五十年も待たされるとは思わなかったです」
「……ごめん」
「今日は謝ってばっかりですね」
「……ありがとう」
「なにがですか?」
「今まで一緒にいてくれて。京ちゃんがいたから楽しい人生だった」
「それは……こちらこそありがとうございました。稔さんが見つけてくれなかったら私の人生はこんなに恵まれたものにはならなかったと思います」
「……」
「どうしました? お疲れになられましたか?」
「……」
「そろそろお布団に戻りますか?」
「……」
「……最後にもう一度……一緒にお花見をしたかったなあ」
「そうですね……また機会があればやりましょうよ」
「……」
「大丈夫ですよ、今度は私が見つけてすぐに声を掛けますから」
「……」
「また会いましょうね、稔さん」
稔の頭が力なく京子の肩にもたれかかる。京子は左手は稔と繋いだまま、右手で真っ白な稔の頭を撫でた。
雪はまだしんしんと降り続いていた。
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