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祖父の三回忌のため、大学を休んで田舎にある実家へ帰省していたときのことだ。
高速バスの窓際で揺られながら、何気なく、ガードレールの向こう側を眺めていた。棚田やあぜ道ばかりが広がった、いかにも田舎という風景。
「なんだ……?」
面白みのない風景のなかに、奇妙なものがあった。
一本のまっすぐな赤い線だ。
何事かとギョッとしたが、すぐにあぜ道に咲いた彼岸花だと思いついた。
鮮やかすぎるほどの、真っ赤な道。
赤い道のなかに、黒い影がある。影は一列に連なっていた。
人間だろうか。男や女らしき姿が入り混じっているが、皆一様に黒いスーツを着ている。
なにかしているのだろうかと、よくよく見ようと窓辺に寄った。そのときだ。
ばちり──と、列のすべての人間と同時に目があった。
そうかと思うと、皆こちらに向かって一斉に走り出したのだ。人間ではとてもありえないような速度で。
私は慌てて窓から飛び退いた。
見てはいけない物を見た──本能的にそう感じた。
気のせいだと思い込みたくて、もう一度確認しようとしたが、バスはトンネルへ突入してしまい、トンネルを抜けた先の窓が映し出したのはビルの立ち並ぶ風景だった。
この奇妙な出来事を、実家暮らしの姉に話したところ「喪服みたいでなんだか気味が悪いわね」と返された。
私の帰省の二週間後に祖母が亡くなったのは、偶然だと信じたい。
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