思い出のクッキー缶

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 すると、またすぐに茜から返事が帰ってきた。 『あーなるほど。当時は蘭子にもいろいろあったみたいだからねえ……。あ、単純に同窓会の幹事とか先生から存在をまるごと忘れられてたってセンは考えないでおいてあげるよ。喜びたまえ』  かなり失礼なことをずけずけと言ってのけている気がするけれど、茜のこういった「あけすけ」なところは嫌いじゃない。それに付き合いだって長いから、これくらいで私も怒りはしない。怒りはしないのだ。  ……のだ、けれど。そのままっていうのもそれはそれで何だかシャクだな、うん。ここは皮肉のひとつでも返してやろう。  えーと、何がいいかな。「ああ、そういえばさっきはありがとう。茜は足が速いだけじゃなくってお見舞いまで速いんだからびっくりしたよ。突然来てすぐ帰るから最初は空き巣にでも入られたかと思った。そうだ、進路希望表には『大泥棒』とでも書いたらどうかしら?」と……。  ふふふ。これが気の置けない関係というものだ。  そうやってあれやこれやと思い浮かぶままに文章へしたためている途中、またメールが来た。 『で、中身はもう見た? すっごい気になるんだけど。小学生時代の蘭子って、あんまりよく知らないしさー。ほら、ちゃんと話すようになったのって中学からじゃない? だからさ、タイムカプセルの中身を見せあったりしようよ』  私は、そのメールの文面を黙って見つめた。それから少し考えたあと『うん。また今度ね』とだけ書いて送った。それで、メールのやりとりは止めにした。  たったそれだけのことなのに。  ひどく、疲れてしまった。  スマホを充電器に載せたあと、私はベッドの枕にぼふっと顔をうずめた。  うつぶせに倒れながら、いろんなことを思い出そうとする。  このクッキーを買ってもらわなくなってから、どれくらい経ったんだろう。  私がまだ小さかった頃、お父さんが教えてくれた。このクッキーの缶に描かれているライラックの花言葉は「思い出」なんだと。だから私は、この中に思い出をいっぱい詰め込もうと決めたんだ。  あの頃は、タイムカプセルを開ける日が待ち遠しかった。  そして、大好きなものが詰まった思い出は、大好きだったお父さんと一緒に開けたかった。  けれど、それが叶うことはなかった。  私が中学生になってすぐのことだった。お父さんが病に倒れ、間もなく亡くなった。
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