思い出のクッキー缶

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 叔母さんは私がそう言うのを見越してか、夕御飯をお盆に載せて持って来てくれていた。勉強机の隅に、食器と飲み物が置かれていく。夕御飯は、鶏肉に卵とほうれん草を加えたシンプルながらも美味しそうなうどんだった。病み上がりの身にはちょうどいい献立だ。叔母さんの心遣いがありがたかった。 「おうどん、できたてだから熱いわよ。冷ましてから食べてね」 「はい、ありがとうございます」 「蘭子ちゃん、身体のほうはもう大丈夫?」 「ええ。問題ないです。もうばっちりです」 「ならいいんだけど……」  そう言って、叔母さんは言葉を詰まらせた。そうして一呼吸置いてから、また言葉を繋げる。 「あ、そうだ! 風邪も治ったんだし、パーっと外で気分転換でもしてきたらどう? お小遣いだったら叔母さん用意してあげるから。お友だちの茜ちゃんも誘って、夏休みらしいことしてきなさいよ。叔母さん、蘭子ちゃんがずっと家で引きこもってるの見てると心配だなあ」 「いや、今年は我慢しときます。ただ遊ぶだけなら来年にでもできますし。私は、今やらないといけないことに全力で取り組みたいんです」 「う~ん。その歳にしてその志は立派すぎるくらいだけどねえ。でもお金のことなんて気にしなくたっていいのよ? 蘭子ちゃんを私学に行かせてあげられるくらいの蓄えだって、無いわけじゃないんだから。ウチのお父さんを逆さに叩いて二、三度振ったら、四年分の学費や生活費なんてぽろぽろ落っこちてくるわよ。それでトドメに蘭子ちゃんがちょ~っと色で仕掛けちゃったりなんかしたら、お父さんは喜んでお金出しちゃうわね!」 「ふふふ、そうですかねえ。私、色気なんてないですよ? けど、そのお心遣いだけ受け取ることにします。私、あくまで国公立だけが目標ですから」 「そう……。分かったわ。蘭子ちゃんは拓実兄さんに似て頑固だもんね」  そう言って、叔母さんは軽く笑った。  愛想のない私にこうやって微笑みかけてくれる人なんて、そうそういないだろう。 「それじゃあ小うるさい叔母さんはもう何も言わないけれど……。でも、お盆の時期くらいはあなたのお父さんのお墓参りくらい、行きなさい。拓実兄さんがあなたのことをどれだけ大切に想っていたか、分かっているでしょう。あとそうやって根を詰めすぎるのもダメ。また体調を崩したら元も子もないんだから。今日は、夕御飯を食べ終わったら早めに寝なさい。いいわね」
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